JCBA・JVCEAが金融庁に暗号資産税制改正を要望
2025年7月30日、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)と一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は、暗号資産取引に関する税制の見直しを求める要望書を金融庁に提出しました。
両団体は、暗号資産(仮想通貨)取引による利益への課税方式について、現行の総合課税(最高税率約55%)を見直し、株式取引などと同様の一律20%による申告分離課税の導入などを強く求めました。さらに損失の繰越控除を3年間にわたって認める制度の整備も提案しています。
この要望書は2026年度の税制改正を見据えて提出されたものであり「暗号資産分野の健全な発展には早急な制度整備が不可欠だ」と主張しています。
また両団体は、暗号資産を他の金融商品と同様に取り扱う税制の確立により、投資家による適正な納税を促進し、あわせて市場全体の健全な成長にもつながると指摘しました。
暗号資産の金商法移行を正式検討へ
5つの暗号資産税制改正案
今回、JCBAとJVCEAが金融庁に提出した要望書には、暗号資産の税制見直しに関する5つの具体的な改正提案が盛り込まれています。主な要点は以下の通りです。
一律20%の申告分離課税と損失の3年間繰越控除
最優先事項として「暗号資産取引益への申告分離課税(20%)の導入」と「損失の3年間繰越控除」を含む具体的な改正提案が盛り込まれました。
この提案では、所得税15%と住民税5%を合算した20%の税率を一律に適用する方式を採用し、現物取引とデリバティブ取引の両方を対象とする制度設計が求められています。
暗号資産を用いた寄附に関する税制の整備
暗号資産による寄附に関しては、所得税法第59条などの適用を明確にした上で、現行法による一律課税の見直しを行い、寄附者に過度な課税負担が発生しないよう制度を整備すべきとしています。
こうした整備により、Web3分野における慈善活動や公共貢献を支える寄附文化の促進が期待されています。
暗号資産の相続時課税における評価方法の見直し
相続税の分野では、暗号資産の評価額を取得時点から過去3ヶ月間の平均価格のうち最も低い値で算定することや、譲渡時にステップアップ方式を適用することが求められました。
この見直しによって、相続人が過度な税負担を負う事態を避け、より合理的かつ柔軟な税務処理が実現可能になるとしています。
暗号資産同士の交換時の課税撤廃
要望書では、ビットコイン(BTC)からイーサリアム(ETH)などへの暗号資産間での交換については非課税とし、法定通貨への換金時点でのみ課税対象とする制度への転換が求められました。
この制度改正により、ユーザーによる柔軟な資産移動や分散投資の促進につながると見込まれています。
雑所得以外の課税枠適用を可能に
また、現行の「雑所得」に限定された暗号資産の課税区分についても見直しが必要とされており、今後の制度整備によってより実態に即した分類が可能になるとしています。
証券的な性質を持つ暗号資産に対しても、柔軟な課税対応を行うための制度的な余地が示されました。
暗号資産政策強化で専任参事官を新設
JCBA「分離課税20%は市場成長に不可欠」
「分離課税は富裕層優遇ではない」JCBA部会長
税制改正の推進役を務めるJCBA税制検討部会の斎藤岳部会長は「一律20%の分離課税は暗号資産市場の持続的な成長に不可欠な措置である」との見解を示しました。
また同氏は、2022年に実施された調査結果を引き合いに出し、約26,000人の投資家のうち約7割が年収300万〜700万円の中間所得層であったと紹介し「分離課税の導入によりこの中間所得層が最も恩恵を受ける」と述べています。
さらに同氏は「分離課税の対象を取引所取引のみに限定するのではなく、個人ウォレットや分散型取引所(DEX)での取引にも適用すべき」と指摘し、制度の包括性を求めました。
こうした背景を踏まえ、斎藤氏は限定的な制度運用がWeb3関連事業者にとって不利益となり、結果として産業の育成を阻害する可能性があるとして、より包括的な課税制度の導入を求めています。
海外との税制格差が移転を加速させる要因に
斎藤氏は、日本の暗号資産税制では最大で55%の総合課税が適用される一方で、海外ではキャピタルゲイン課税など低い税率で統一されている国が多く、こうした税制格差が国際競争力の低下につながっていると指摘しています。
特に今後、ビットコイン現物ETFが国内で上場した場合、ETF経由での投資には20%課税が適用される一方、現物を直接保有する場合には最大55%の課税となる可能性があると懸念を示しています。この不整合を回避するためにも、制度の公平性確保が重要だと強調しました。
金融庁、暗号資産の新規制を承認
暗号資産政策で後れを取る日本政府の姿勢
日本政府および金融庁は、暗号資産の扱いについて大きな遅れを取りながらも制度見直しに向けた姿勢を見せ始めています。
政府与党は2025年度税制改正大綱の中で「暗号資産取引の課税見直し」を明記し、分離課税の導入を含む見直し方針を明らかにしました。
金融庁、仮想通貨税制と制度を本格審議
金融庁は2025年6月25日に開かれた金融審議会において、暗号資産の法的な位置づけを議論しました。資金決済法から金融商品取引法への移行や、ビットコインETFの承認も視野に入れた制度改革が検討されています。
金融庁によれば、2025年4月時点で国内の暗号資産取引口座数は約1,200万件に上り、預かり資産は総額5兆円を超えています。こうした市場拡大に対し、現行の税制に対する国内ユーザーの不満の声が高まっているとしています。
与党内で進む税制改革の議論と提言
自民党のWeb3ワーキンググループは2025年3月、20%の分離課税や損失繰越制度を含む税制改革案を発表しました。これにより、同グループは税制改正に向けた政策提言を一層強化しています。
与党内では、Web3推進派の議員を中心に、産業振興と投資環境の改善を両立させるための取り組みが進められています。
暗号資産税制、慎重姿勢で出遅れる日本政府
記事執筆時点では法改正には至っておらず、日本政府はWeb3の振興を国家戦略に掲げつつも、依然として慎重な対応を崩していません。
欧米諸国では法整備と低税率の導入が進む一方で、日本においては高い税負担や規制の厳格さが市場参入の障壁となっているとの不満や懸念が広がっています。
政府関係者は「投資家保護とイノベーションの両立」を方針として掲げているものの、業界団体や投資家からは、より実効性のある税制改革の実現を求める声が強まっています。
要望書に示された20%分離課税や損失繰越制度の採用が実現するかが、今後の政策の行方を左右する重要なポイントとして注目されています。
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Source:JCBA公式発表
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